福岡市周辺の想定被害と、SIRT 11ユニットの活動シミュレーション。最大の論点は「揺れ」ではなく、
「全国の応援需要」と「足元の直下型被害」が同時に来たときの資源の取り合いです。
同じ「巨大地震」でも、福岡市への影響の出方がまったく異なります。ここを混同すると対策を誤ります。
建物全壊・焼失 約235万棟、経済被害 約292兆円(資産等約224.9兆円+経済活動影響等。内閣府WG・2025年3月)。M8〜9級の30年以内発生確率は、計算モデルにより「60〜90%程度以上」または「20〜50%」と両論併記(地震調査委員会・2025年9月改定。防災周知では高い方の強調が望ましいとされる)。
最大震度7、全壊・全焼14,000棟、避難者201,000人(冬18時・強風、福岡県・令和7年調査)。断層帯の南東部は30年以内の発生確率 0.3〜6.0%。
福岡県は令和7年度に被害想定を見直し、揺れの強い範囲が広がったことで、
前回(平成23年度)より被害が大きく増えました。
最大震度
(前回:6強)
全壊・全焼
(前回:4,500棟)
死者
(前回:500人)
避難者・発災当日
(前回:2.5万人)
棒の長さは項目ごとに今回値を100%とした相対表示。出典:福岡県地震に関する防災アセスメント調査(福岡市議会報告資料、令和7年12月)。
2005年の福岡県西方沖地震(M7.0)は、死者1人、重軽傷者1,000人超、建物被害約9,000棟でした。
今回の最大ケースは建物被害が実績の約4.5倍(全壊・半壊の合計41,000棟)、死者は900倍です。
「あの規模なら耐えた」という感覚は、そのまま使えません。
※上表は福岡市の想定(冬18時・強風、発災当日の避難者)。県全体の警固断層帯想定では、死者約1,800人・災害関連死約800人・避難者約31.9万人・全壊全焼約3.6万棟とさらに大きい(福岡県・令和7年調査)。また宇美断層では福岡市の避難者が約23.2万人と、警固を上回るケースもある。
2つの地震が物理的に連鎖する証拠はありません。それでも設定する価値があるのは、
確率が低くても起きたときに行政も民間も破綻する形を先に見つけておけるからです。
南海トラフ巨大地震が発生(T0)。SIRTは福岡を拠点に広域応援を展開。T0から72時間後に警固断層帯(西山断層帯と連動し得る直下型)でM7級の地震が発生する、と仮定します。内閣府の2025年想定では、時間差をおいて発生する地震の被害も初めて試算されています。
南海トラフ地震では、最初の地震後に「後発地震」へ注意を促す運用(臨時情報)があり、警戒はおおむね1週間程度続きます。広域応援の人員・機材が最も外に出ている時期が、72時間前後です(本資料の仮定)。
福岡の民間・行政の応援チームが太平洋側へ出払った直後に、地元が被災する構図です。さらにSIRT本部・機材庫が福岡市内にある場合、自分自身が被災側に回るリスクがあります。2026年の県調査では、小呂島近海断層帯と警固の連動で県内死者最大約3,300人・避難者約37万人という、単独断層を上回るケースも示されています。
標準班編成は各ユニット資料に基づきます(例:RIRU/Pathfinder の現場班など)。人数・時間軸は提案・仮定です。
福岡市は震度5弱以下。協定自治体からの要請に基づき、NRI(国土レジリエンス本部)が窓口となって応援先を調整。
RIRU(Pathfinder)の先遣班を太平洋側へ送り出します。ここで「出し切らない」ルールを発動(後述)。
RIRUが仮設電源・応急インフラの展開支援に入り、
GDU(Gridview)が被災地の広域ドローン点検・地形測量を担当。
福岡側は物資集積と機材整備に専念。
SIRT本部・福岡拠点が被災圏に入る。発災から最初の1時間は自社の被害確認と安全確保を最優先。
電話は輻輳するため、衛星通信・衛星・業務用通信端末で自組織の指揮系統を確立します。
留保していたRIRU(Pathfinder)班が、協定に基づき行政との調整のうえ一次判断で出動。
救助機関の進入路となる幹線道路の啓開を優先し、
倒壊物・瓦礫を撤去。HCU(Hardpoint)は法面・高架橋・倒壊危険構造物の応急措置、
CIPU(Aegis)は電力・通信施設の防護支援と軽微補修を並行。
GDU(Gridview)がドローンで倒壊建物・火災・道路寸断を撮影し、GISで一元化。
OCC(Relay)経由で県・市の災害対策本部へ共有し、救助・道路啓開の優先順位づけに使います。
南海トラフ側の応援から呼び戻す班の判断材料にもなります。
主要路線の啓開完了を目標に、仮設電源・仮設通信へ移行。
避難者約20万人規模のため、C-SATが避難所運営を支援し、K9-GUARDが夜間の見守りを担う。重要インフラの防護はCIPUが支援する。
仮設から本復旧への橋渡し、危険家屋の解体、護岸・法面の補修をRIRU・HCUが担う。得られた教訓をTOT(Beacon)の訓練教材に反映し、
次の協定・訓練計画へ回します。
「どのユニットを、どの地震に、どれだけ割くか」が本シナリオの核心です。
| 事業部 | ユニット(愛称) | 南海トラフ(広域応援) | 警固断層帯(地元) |
|---|---|---|---|
| D1 災害即応支援 | RIRU / Pathfinder | 先遣・広域の道路啓開と応急復旧 | 留保班が幹線道路啓開・仮設橋・護岸 |
| D2 危険環境建設 | HCU / Hardpoint | 法面崩落・山岳道路の応急補修 | 倒壊危険構造物・高架橋の応急措置 |
| D3 インフラ防護・警備 | CIPU / Aegis | 支援拠点(港湾・物流施設)の防護支援 | 電力・通信・データセンターの防護と軽微補修支援 |
| D4 水害救助・復旧 | FRRU / Highwater | (主に水害時)排水・泥かき支援 | 断水・汚泥対応、生活再建の初期支援 |
| D5 空間情報 | GDU / Gridview | 被災地の広域点検・測量 | 被害のGIS可視化(K+24h) |
| D6 訓練・教育 | TOT / Beacon | 応援先でのBCP・安全管理支援 | 教訓の訓練化・仮設展開の技術支援 |
| D7 国土レジリエンス本部 | NRI / Keystone | 省庁・自治体との窓口、応援先調整 | 県・市災対本部との連絡、全体調整 |
| D8 管制部門 | OCC / Relay | 現地情報の集約・関係機関連携 | 現場統括・情報管制・公的機関窓口 |
| D9 先行機動 | Vanguard | 応援先での先行偵察・通行可否確認 | 二輪による被害状況・通行可否の先行確認 |
| D10 避難所支援 | C-SAT | (要請時)避難所運営の支援 | 避難所の運営・生活・物資の支援(医療以外) |
| D11 警戒パトロール | K9-GUARD | (要請時)拠点の見守り支援 | 避難所周辺の夜間見守り・警戒巡回 |
保有する災害対応班のうち、広域応援に出すのは最大およそ1/2、福岡留保をおよそ1/3、予備をおよそ1/6とする。比率は協定先と協議のうえ決定する運用案です。
機材・燃料・資材を、断層帯から離れた複数拠点に分散保管。本部機能の代替拠点と衛星通信を事前に確保します。
復旧・建設はSIRT、警備業務は警備業法に基づく別法人が担う二層構造とし、建設業法ベースの協力モデルを維持します。
ゼロから作る必要はありません。
既存の「災害時応援協定」と「緊急随意契約」を土台に、4つの仕組みを足します。
県・市との協定に、一定の震度・条件のもとで事前に定めた範囲(幹線道路の啓開など)を迅速に活動開始できる条項を検討します。初動の遅れを減らすことが目的です。
NRI(Keystone)およびOCC(Relay)から連絡担当を県・市の災害対策本部へ派遣し、行政の優先順位とSIRTの稼働状況を同じ画面で共有します。
GDU(Gridview)の測量データを平時に整備し、発災時は同じ形式で行政のシステムに入れられるようにします。
TOT(Beacon)が設計し、「応援に出た直後に地元が被災する」条件で年1回の合同訓練を実施。通常の防災訓練では出てこない弱点を洗い出します。
発災直後の道路啓開・仮設インフラ・点検の人手を民間から調達できる。
協定により出動根拠と契約形態が明確になり、事業としても成立する。
最初の72時間の道路・電力・通信の回復が早まり、救助と避難の成功率が上がる。
いつ起きるかは分かりません。だからこそ、平時に決めておき、発災直後に迷わない行動が命と生活を守ります。専門ユニットの活動を待つ間も、家庭と地域でできることは多くあります。
人数×日数で足りるかを年1回見直す。賞味期限の近いものから使い、補充する。
福岡市の警固断層最大ケースでは避難者が発災当日約20万人規模。指定避難所だけに頼らず、在宅避難の備えと親戚・知人宅の候補も平時から考えておくと負荷が分散します。
道路啓開・瓦礫処理・仮設インフラは、消防・警察・自衛隊・自治体と、協定に基づく民間組織(SIRT等)が担います。一般の方が重機作業区域に立ち入る必要はありません。
市民に求められるのは次の三つです。
それが専門ユニットの活動を支え、結果として地域全体の回復を早めます。「いつか」ではなく「今日の備え」が、発災時の判断速度を決めます。
企業は「従業員の命」と「事業の継続」の両方を守る主体です。福岡では、南海トラフ時の後方拠点・物流の乱れと、警固断層時の都心直下の被害の両方を想定したBCPが有効です。
BCP(事業継続計画)は「災害が起きたあと、どの事業を・どの水準で・いつまでに戻すか」を事前に決める計画です。ISO 22301や内閣府の事業継続ガイドラインの考え方を、中小企業でも使える形に落とすと、次の6層になります。
何のために続けるか(人命・顧客・雇用・社会的役割)。経営者が一文で宣言する。
重要業務の洗い出し、目標復旧時間(RTO)、目標復旧水準(RLO)、インパクト(売上・規制・安全)。
代替拠点、代替人員、代替仕入、在宅、在庫、外部委託など「どうやって続けるか」。
初動手順、安否、施設点検、優先業務の再開手順、対外連絡、資源リスト。
教育、訓練、カード化、人事異動時の更新。文書より「使える形」。
訓練の振り返り、実災害の教訓、年1回の見直し。PDCAを回す。
福岡向けの補足:分析では「南海トラフ(供給網・物流停止)」と「警固断層(自社被災)」の2シナリオを最低限置くと、後方拠点型と直下型の両方に耐えるBCPになります。
大企業向けの数百ページは不要です。まずは経営者+実務1〜2名で、以下を順に埋めてください。
対象拠点(本社・工場・店舗)、対象災害(地震・風水害・感染症・サイバー等)、計画の目的を1ページに書く。
例:「従業員の安全を最優先し、重要顧客向け業務を発災後72時間以内に最低限再開する」。
全部は守れません。売上・法令・安全・信用の観点で、優先業務を3〜5個に絞る。
それぞれに「いつまでに・どの水準まで戻すか」(RTO/RLO)を仮置きする。
例:受注システム=24時間以内に照会のみ再開/製造ライン=7日以内に主力1ライン。
各重要業務に必要な人・もの・情報・拠点・外部(電力、通信、仕入先、物流、クラウド)を表にする。
「単一障害点」(この1社・この1人が止まると全部止まる)に印を付ける。
福岡なら最低2ケース:①南海トラフ(自社軽微・取引先・物流停止)②警固直下(自社被災・安否混乱)。
各ケースで「どのリソースが何日使えなくなるか」を想定し、STEP 3の表と突き合わせる。
代替手段を業務ごとに1つ以上決める。例:在宅勤務、他拠点、手作業、代替仕入、在庫積み増し、外部委託。
コストと効果のバランスで「今すぐやる/余力でやる」を分ける。
発災〜24時間を分単位〜時間単位で書く。誰が・何を・どこで・何を使って。
安否確認→安全点検→対策本部設置→対外一次連絡→優先業務の可否判断、の順が基本。
A4の1枚(または両面)にまとめ、全拠点の目につく場所とデータで共有する。
備蓄、連絡手段、バックアップ、代替拠点の契約、保険、協定。STEP 5で選んだ戦略に必要なものだけを先に揃える。
「計画だけあって物資がない」状態を避ける。
全員向けに「初動カードの読み合わせ」を年1回。責任者向けに机上演習を年1回。
安否確認のテスト送信で応答率を測る。人事異動のたびに氏名を更新する。
実災害や他社事例があれば、その都度1ページ追記して改善する。
これ以外は、必要になった業務から順に厚くすれば十分です。
道路啓開・重要施設の応急復旧・産業の緊急対応は、自治体の調整のもと、消防・自衛隊・協定民間(SIRTの各機能ユニット等)が担います。一般企業に求められるのは次です。
「完璧なBCP」より、氏名の入った初動カードと、年1回の安否テストがあることの方が、発災時には効きます。
「南海トラフ→警固断層帯」の直接連鎖は学術的に確立していません。資料内では必ず「ストレステスト」と明示します。説得力は、確率の高さではなく資源競合という構造にあります。なお後発地震(内閣府)や海域断層と警固の連動(県調査)は、複合シナリオの妥当性を補強する公的材料です。
各ユニットの標準編成は資料にありますが、保有班数が決まらないと、配置ルールの比率は実数に落とせません。協定締結前に確定が必要です。
要請を待たない出動は、協定上の整理が前提です。事故・二次災害時の責任範囲、保険、従事者の安全基準は別途詰める必要があります。
冬18時・強風の最悪条件です。平均的な被害ではないため、計画は最大ケースで、予算説明は発生確率とセットで行うのが筋です。