Sentinel Infrastructure Resilience & Transformation / 国土強靱化 官民連携モデル 提案資料版

ストレステスト・シナリオ
南海トラフ巨大地震と警固断層帯が
重なったとき、福岡で何が起きるか

福岡市周辺の想定被害と、SIRT 11ユニットの活動シミュレーション。最大の論点は「揺れ」ではなく、
「全国の応援需要」と「足元の直下型被害」が同時に来たときの資源の取り合いです。

本資料の位置づけ:これは予測ではなく、行政・民間の備えを検証するためのストレステスト・シナリオです。
南海トラフ地震が警固断層帯の地震を直接引き起こすという科学的根拠は確立していません。一方、内閣府の2025年被害想定では時間差発生(後発地震)の被害も初めて試算され、福岡県の2026年調査では小呂島近海断層帯と警固断層帯の連動が指摘されるなど、「複合・連動を想定した備え」の必要性は公的にも増しています。
数値は福岡県・内閣府・地震調査委員会の公表値を出典とし、SIRTの運用に関する数値は「提案値」「仮定」と明記しています。
記述検証日:2026年10月(公開資料に基づく)。

01前提:福岡にとっての2つの地震は性質が違う

同じ「巨大地震」でも、福岡市への影響の出方がまったく異なります。ここを混同すると対策を誤ります。

南海トラフ巨大地震(海溝型)

29.8万人 全国の最大死者数

建物全壊・焼失 約235万棟、経済被害 約292兆円(資産等約224.9兆円+経済活動影響等。内閣府WG・2025年3月)。M8〜9級の30年以内発生確率は、計算モデルにより「60〜90%程度以上」または「20〜50%」と両論併記(地震調査委員会・2025年9月改定。防災周知では高い方の強調が望ましいとされる)。

  • 福岡市の最大震度は5弱で、市内の直接被害はほぼ想定されない(福岡県・令和7年調査)
  • 被害の中心は静岡〜九州の太平洋側。福岡は後方支援・物流・広域応援の拠点になる

警固断層帯(直下型・西山断層帯と区間連動)

900人 福岡市の想定死者数

最大震度7、全壊・全焼14,000棟、避難者201,000人(冬18時・強風、福岡県・令和7年調査)。断層帯の南東部は30年以内の発生確率 0.3〜6.0%。

  • 断層は博多湾から筑紫野市まで約27kmで、都心部を縦断する
  • 2005年の福岡県西方沖地震(M7.0)はこの断層帯の北西部で発生した

02福岡市の想定被害(警固断層帯・最大ケース)

福岡県は令和7年度に被害想定を見直し、揺れの強い範囲が広がったことで、
前回(平成23年度)より被害が大きく増えました。

7

最大震度
(前回:6強)

14,000棟

全壊・全焼
(前回:4,500棟)

900人

死者
(前回:500人)

20.1万人

避難者・発災当日
(前回:2.5万人)

前回調査(平成23年度)今回調査(令和7年度)
全壊・全焼(棟)
14,000
4,500
半壊(棟)
27,000
3,500
負傷者(人)
4,600
3,200
避難者(人)
201,000
25,000

棒の長さは項目ごとに今回値を100%とした相対表示。出典:福岡県地震に関する防災アセスメント調査(福岡市議会報告資料、令和7年12月)。

実績との比較

2005年の福岡県西方沖地震(M7.0)は、死者1人、重軽傷者1,000人超、建物被害約9,000棟でした。
今回の最大ケースは建物被害が実績の約4.5倍(全壊・半壊の合計41,000棟)、死者は900倍です。
「あの規模なら耐えた」という感覚は、そのまま使えません。

※上表は福岡市の想定(冬18時・強風、発災当日の避難者)。県全体の警固断層帯想定では、死者約1,800人・災害関連死約800人・避難者約31.9万人・全壊全焼約3.6万棟とさらに大きい(福岡県・令和7年調査)。また宇美断層では福岡市の避難者が約23.2万人と、警固を上回るケースもある。

03「連動」をどう捉えるか:複合災害=資源競合

2つの地震が物理的に連鎖する証拠はありません。それでも設定する価値があるのは、
確率が低くても起きたときに行政も民間も破綻する形を先に見つけておけるからです。

設定シナリオ

南海トラフ巨大地震が発生(T0)。SIRTは福岡を拠点に広域応援を展開。T0から72時間後に警固断層帯(西山断層帯と連動し得る直下型)でM7級の地震が発生する、と仮定します。内閣府の2025年想定では、時間差をおいて発生する地震の被害も初めて試算されています。

なぜ72時間後か

南海トラフ地震では、最初の地震後に「後発地震」へ注意を促す運用(臨時情報)があり、警戒はおおむね1週間程度続きます。広域応援の人員・機材が最も外に出ている時期が、72時間前後です(本資料の仮定)。

本当の脅威

福岡の民間・行政の応援チームが太平洋側へ出払った直後に、地元が被災する構図です。さらにSIRT本部・機材庫が福岡市内にある場合、自分自身が被災側に回るリスクがあります。2026年の県調査では、小呂島近海断層帯と警固の連動で県内死者最大約3,300人・避難者約37万人という、単独断層を上回るケースも示されています。

04SIRT活動シミュレーション

標準班編成は各ユニット資料に基づきます(例:RIRU/Pathfinder の現場班など)。人数・時間軸は提案・仮定です。

南海トラフ巨大地震 発生・福岡は軽微

RIRUPathfinderVanguardNRIOCC

福岡市は震度5弱以下。協定自治体からの要請に基づき、NRI(国土レジリエンス本部)が窓口となって応援先を調整。
RIRU(Pathfinder)の先遣班を太平洋側へ送り出します。ここで「出し切らない」ルールを発動(後述)。

広域応援の本隊展開・福岡は後方拠点に

RIRUGDUGridview

RIRUが仮設電源・応急インフラの展開支援に入り、
GDU(Gridview)が被災地の広域ドローン点検・地形測量を担当。
福岡側は物資集積と機材整備に専念。

警固断層帯で直下型地震(最大震度7)

全壊・全焼14,000棟死者900人避難者20.1万人

SIRT本部・福岡拠点が被災圏に入る。発災から最初の1時間は自社の被害確認と安全確保を最優先。
電話は輻輳するため、衛星通信・衛星・業務用通信端末で自組織の指揮系統を確立します。

地元留保ユニットが協定に基づき出動

RIRUPathfinderHCUHardpointCIPU

留保していたRIRU(Pathfinder)班が、協定に基づき行政との調整のうえ一次判断で出動。
救助機関の進入路となる幹線道路の啓開を優先し、
倒壊物・瓦礫を撤去。HCU(Hardpoint)は法面・高架橋・倒壊危険構造物の応急措置、
CIPU(Aegis)は電力・通信施設の防護支援と軽微補修を並行。

被害状況を可視化し、行政の意思決定を支える

GDUGridviewOCCNRI

GDU(Gridview)がドローンで倒壊建物・火災・道路寸断を撮影し、GISで一元化。
OCC(Relay)経由で県・市の災害対策本部へ共有し、救助・道路啓開の優先順位づけに使います。
南海トラフ側の応援から呼び戻す班の判断材料にもなります。

生活の最低ラインを回復

RIRUC-SATK9-GUARDFRRU

主要路線の啓開完了を目標に、仮設電源・仮設通信へ移行。
避難者約20万人規模のため、C-SATが避難所運営を支援し、K9-GUARDが夜間の見守りを担う。重要インフラの防護はCIPUが支援する。

復旧から復興へ・訓練への還元

TOTBeaconHCURIRU

仮設から本復旧への橋渡し、危険家屋の解体、護岸・法面の補修をRIRU・HCUが担う。得られた教訓をTOT(Beacon)の訓練教材に反映し、
次の協定・訓練計画へ回します。

0511ユニットの役割配置

「どのユニットを、どの地震に、どれだけ割くか」が本シナリオの核心です。

事業部ユニット(愛称)南海トラフ(広域応援)警固断層帯(地元)
D1 災害即応支援RIRU / Pathfinder先遣・広域の道路啓開と応急復旧留保班が幹線道路啓開・仮設橋・護岸
D2 危険環境建設HCU / Hardpoint法面崩落・山岳道路の応急補修倒壊危険構造物・高架橋の応急措置
D3 インフラ防護・警備CIPU / Aegis支援拠点(港湾・物流施設)の防護支援電力・通信・データセンターの防護と軽微補修支援
D4 水害救助・復旧FRRU / Highwater(主に水害時)排水・泥かき支援断水・汚泥対応、生活再建の初期支援
D5 空間情報GDU / Gridview被災地の広域点検・測量被害のGIS可視化(K+24h)
D6 訓練・教育TOT / Beacon応援先でのBCP・安全管理支援教訓の訓練化・仮設展開の技術支援
D7 国土レジリエンス本部NRI / Keystone省庁・自治体との窓口、応援先調整県・市災対本部との連絡、全体調整
D8 管制部門OCC / Relay現地情報の集約・関係機関連携現場統括・情報管制・公的機関窓口
D9 先行機動Vanguard応援先での先行偵察・通行可否確認二輪による被害状況・通行可否の先行確認
D10 避難所支援C-SAT(要請時)避難所運営の支援避難所の運営・生活・物資の支援(医療以外)
D11 警戒パトロールK9-GUARD(要請時)拠点の見守り支援避難所周辺の夜間見守り・警戒巡回

配置ルール(提案値)

保有する災害対応班のうち、広域応援に出すのは最大およそ1/2、福岡留保をおよそ1/3、予備をおよそ1/6とする。比率は協定先と協議のうえ決定する運用案です。

自社被災への備え

機材・燃料・資材を、断層帯から離れた複数拠点に分散保管。本部機能の代替拠点と衛星通信を事前に確保します。

法的整理

復旧・建設はSIRT、警備業務は警備業法に基づく別法人が担う二層構造とし、建設業法ベースの協力モデルを維持します。

06国土強靱化に向けた官民連携モデル

ゼロから作る必要はありません。
既存の「災害時応援協定」と「緊急随意契約」を土台に、4つの仕組みを足します。

事前協定を「条件付き自動出動」にする

県・市との協定に、一定の震度・条件のもとで事前に定めた範囲(幹線道路の啓開など)を迅速に活動開始できる条項を検討します。初動の遅れを減らすことが目的です。

連絡官(LO)を災対本部に常駐させる

NRI(Keystone)およびOCC(Relay)から連絡担当を県・市の災害対策本部へ派遣し、行政の優先順位とSIRTの稼働状況を同じ画面で共有します。

被害情報のGIS共有を平時から運用する

GDU(Gridview)の測量データを平時に整備し、発災時は同じ形式で行政のシステムに入れられるようにします。

合同訓練を「資源競合」想定で実施する

TOT(Beacon)が設計し、「応援に出た直後に地元が被災する」条件で年1回の合同訓練を実施。通常の防災訓練では出てこない弱点を洗い出します。

行政のメリット

発災直後の道路啓開・仮設インフラ・点検の人手を民間から調達できる。

民間のメリット

協定により出動根拠と契約形態が明確になり、事業としても成立する。

県民のメリット

最初の72時間の道路・電力・通信の回復が早まり、救助と避難の成功率が上がる。

07一般市民ができる発災時の対策例

いつ起きるかは分かりません。だからこそ、平時に決めておき、発災直後に迷わない行動が命と生活を守ります。専門ユニットの活動を待つ間も、家庭と地域でできることは多くあります。

まず押さえる4原則

  • 自分の安全が最優先 — 救助や支援は、自分が無事であることが前提
  • 情報は一つに頼らない — 自治体防災アプリ・気象庁・NHK・Jアラートを併用
  • 最初の72時間は自助が基本 — 水・食・薬・トイレを自分で持つ
  • むやみに動かない — 余震・倒壊・火災・渋滞が二次被害を増やす

福岡で特に意識すること

  • 南海トラフ時:市内は震度5弱程度でも、交通麻痺・物資不足・帰宅困難・広域応援需要が同時に起きる
  • 警固断層時:都心直下で震度6強〜7があり得る。家具固定・耐震・避難路が命に直結
  • 通信:携帯の輻輳を前提に、災害用伝言ダイヤル(171)・災害用伝言板・SNS安否、可能なら衛星・無線も
  • 液状化・沿岸:博多湾沿岸・埋立地では液状化・道路陥没に注意。車での移動は特に危険

① 平時(今日からできること)

  • 室内の安全:家具の固定、ガラス飛散防止フィルム、就寝位置を大型家具から離す
  • 備蓄:水・食料・常備薬を最低3日分(できれば7日)。ローリングストック(普段使いしながら補充)
  • 連絡:家族の集合場所を2か所(近隣/広域)、電話が通じない前提の連絡手段を決める
  • 地図頭:自宅・勤務先のハザードマップ、指定避難所、出入口、消火器の位置を実際に歩く
  • 地域:自主防災組織・マンション防災部の訓練に一度でも参加
  • データ:保険証券・身分証・お薬手帳は写真またはクラウドに控え
  • 建物:可能なら耐震診断・家具転倒防止の金具施工を検討

② 揺れの最中〜直後(0〜数十分)

  • その場で頭を守る(机の下、低い姿勢)。無理に外へ出ない
  • 揺れが収まったら火気確認(コンロ・ヒーター)。安全を確認してからガス元栓
  • 靴を履き、割れたガラス・釘に備える
  • ドアや窓を開け、避難経路を確保(余震で開かなくなる前に)
  • 隣近所へ声かけ(可能な範囲)。要支援者の安否を優先
  • テレビ・ラジオ・防災行政無線・公式アプリで情報取得。SNSの未確認情報は信じない
  • エレベーター内にいた場合:全階ボタン、インターホンで状況を伝え、救助を待つ

③ 発災後・数時間〜3日

  • 避難の判断:建物の傾き・異臭・煙・火災・津波警報・土砂危険があれば直ちに避難
  • 車での避難は渋滞・緊急車両の妨げになりやすい。徒歩を基本に
  • 水・食料は計画的に。買い占め・行列は二次混乱の元
  • SNSは発信より確認。未確認情報を拡散しない(デマは救援を遅らせる)
  • 持病の薬・乳幼児・高齢者・障害者・ペットのケアを優先リスト化
  • 通電火災:長時間留守・避難時はブレーカーOFFを検討
  • 自宅が無事でも、ライフライン停止時は在宅避難か避難所か、家族で事前に決めておく

④ 家庭用備蓄チェックリスト

人数×日数で足りるかを年1回見直す。賞味期限の近いものから使い、補充する。

  • 水:1人1日およそ3リットル(飲料+簡易衛生)
  • 食料:レトルト・缶詰・アルファ米・栄養補助食。乳児用ミルク・介護食が必要な家庭は別枠
  • 衛生:簡易トイレ(凝固剤)、ティッシュ、ウェットティッシュ、生理用品、ゴミ袋
  • 医療:常備薬・処方薬(多め)、お薬手帳のコピー、マスク、消毒液、救急セット
  • 電源・情報:懐中電灯、予備電池、手回し/充電式ラジオ、モバイルバッテリー、ケーブル
  • 生活:現金(少額)、身分証のコピー、厚手手袋、笛、保温シート、ヘルメットまたは防災ずきん
  • 連絡:家族の電話番号・集合場所を紙でも保管(スマホが使えなくても読める)
  • 季節:冬は防寒具・カイロ、夏は経口補水・冷却用品を追加

⑤ 在宅避難と避難所の使い分け

  • 在宅避難が向く場合:建物に大きな損傷がなく、火災・浸水・土砂の危険がなく、水・食・トイレが数日分ある
  • 避難所へ行く場合:倒壊・火災の恐れ、ライフライン長期停止、医療・介護が必要なとき
  • 避難所では、受付・ルール・運営側の指示に従う。荷物は最小限、他者への配慮を優先
  • 車中泊はエコノミークラス症候群に注意。足首運動・水分・可能な範囲での歩行
  • ペットはケージ・フード・トイレを持参。受け入れ可否は自治体の案内を確認

福岡市の警固断層最大ケースでは避難者が発災当日約20万人規模。指定避難所だけに頼らず、在宅避難の備えと親戚・知人宅の候補も平時から考えておくと負荷が分散します。

⑥ 地域・職場・マンションでできること

  • 要支援者(高齢者・障害・乳幼児)の所在を、プライバシーに配慮しつつ共有
  • 初期消火・救出・安否確認の役割分担(班長・副班長を決めておく)
  • 共用部の消火器・防災倉庫・非常照明の位置を全員が知る
  • 勤務先の安否確認ルールと、帰宅困難時の社内滞在方針
  • デマ防止:公式発表以外を「確定」として扱わない。拡散しない
  • ボランティアは、自治体や社会福祉協議会の受付を通す。個人の突発的な現地入りは二次災害の元

⑦ やってはいけないこと(二次災害の典型)

  • 余震が続くなかでの無理な建物内再進入
  • 壊れた電柱・電線・ガス臭のする場所への接近
  • 緊急車両の通行を妨げる路上駐車・見物
  • 未確認の「助けが来ない」「放射能」などの流言の拡散
  • 重機・啓開作業区域への立ち入り(専門ユニットの活動を止める)
  • 被災地への個人的な物資の持ち込み(仕分け負担・交通渋滞の原因になることが多い)

SIRT・公的機関と市民の役割分担

道路啓開・瓦礫処理・仮設インフラは、消防・警察・自衛隊・自治体と、協定に基づく民間組織(SIRT等)が担います。一般の方が重機作業区域に立ち入る必要はありません。

市民に求められるのは次の三つです。

  • 自助 — 自分と家族の安全・備蓄・正確な情報
  • 共助 — 隣近所の安否、初期消火、避難所でのルール遵守
  • 公助を妨げない — 緊急車両と作業区域を空け、デマを広げない

それが専門ユニットの活動を支え、結果として地域全体の回復を早めます。「いつか」ではなく「今日の備え」が、発災時の判断速度を決めます。

08一般企業としての事前対策・発災時アドバイス

企業は「従業員の命」と「事業の継続」の両方を守る主体です。福岡では、南海トラフ時の後方拠点・物流の乱れと、警固断層時の都心直下の被害の両方を想定したBCPが有効です。

企業が押さえる原則

  • 人命が最優先 — 売上・納期より、安否確認と安全確保
  • 初動は「決め打ち」 — 電話が通じない前提で、誰が・何を・どこまでやるかを文書化
  • 72時間は自前 — 電力・通信・水が止まっても、最低限の指揮と安否ができる状態
  • 本社だけに依存しない — 代替拠点・在宅・分散保管で単一障害を減らす

福岡の企業特有のリスク

  • 南海トラフ時:自社建物は軽微でも、仕入先・物流・取引先が太平洋側で停止。帰宅困難者が都心に滞留
  • 警固断層時:オフィス・工場・倉庫が直接被災。従業員の通勤・家族の安否が同時に混乱
  • 複合時:広域応援と地元被害が重なり、公的支援・民間復旧の順番が遅れる可能性
  • 業種:半導体・物流・データセンター・小売・建設は、県の重要インフラ・サプライチェーンと直結

① 平時の体制づくり

  • BCPの簡素版でもよいので「ある」状態にする(未整備が最大のリスク)
  • 災害対策の責任者・代行者を氏名で決める(不在時の順位付き)
  • 従業員・家族の安否確認手段(アプリ・メール・伝言板)を年1回テスト
  • 重要データ・契約・顧客リストのバックアップ(クラウド+オフサイト)
  • 緊急時の連絡網を紙でも1部保管(停電・端末故障に備える)
  • 自治体・商工会議所・同業の災害協定・互助の有無を確認
  • 保険(火災・休業・施設賠償)の補償範囲を担当者が把握

② 事業所・設備の備え

  • 什器・サーバーラック・薬品棚の固定。転倒・落下防止
  • 消火器・誘導灯・非常口の点検。避難経路に物を置かない
  • 非常用電源(UPS/発電機)の有無と燃料の保管ルール
  • 飲料水・簡易食・トイレ・毛布を滞在人数×3日目安で備蓄(帰宅困難対応)
  • 重要書類・印鑑・予備鍵の耐火・分散保管
  • 液状化・浸水の可能性がある立地では、重要機器を上層・架台へ
  • 車両・重機がある場合は、燃料と出動可否の判断基準を文書化

③ 発災直後(0〜数時間)

  • まずその場の安全(落下物・出火・ガス)。無理な業務再開はしない
  • 従業員の安否確認を最優先。未確認者リストを責任者が管理
  • 施設の目視点検(構造・漏水・異臭)。危険なら立入禁止
  • 公式情報のみで判断。デマに基づく出勤指示・休業判断を避ける
  • 帰宅困難者には、無理な帰宅をさせず社内滞在の可否を早期に伝える
  • 顧客・取引先への一次連絡(「確認中」「○時以降に再連絡」でもよい)

④ 事業継続(数時間〜数週間)

  • 優先業務を3つ以内に絞る(止めてよい業務を平時に決めておく)
  • 代替拠点・在宅勤務・他事業所への切替手順を発動
  • 仕入先・物流の代替ルートを1つ以上リスト化(南海トラフ時は特に有効)
  • 現金・電子決済・請求の一時停止ルールを経理と合意
  • 従業員の出勤可否は、通勤経路の安全と家族の状況を踏まえて判断
  • 復旧工事・清掃は、資格・保険のある業者へ。素人作業で二次災害を出さない
  • SNS・対外発表は窓口を一本化。現場写真の無秩序な投稿を禁止

⑤ 業種別のポイント(例)

  • オフィス・IT:データと認証の冗長化、在宅切替、顧客への障害告知テンプレ
  • 小売・飲食:在庫の腐敗・廃棄ルール、営業可否の掲示、従業員の帰宅支援
  • 物流・倉庫:棚の固定、フォークリフトの安全停止、緊急輸送の可否判断
  • 製造・建設:装置の緊急停止手順、危険物・ガスの遮断、現場の立入禁止
  • 医療・介護関連:利用者の安否と薬、バックアップ電源、搬送優先度
  • 中小・個人事業:家族経営でも「誰が安否を取るか」だけは決めておく

⑥ 訓練と見直し(年1回でよいから)

  • 安否確認のテスト送信(応答率を測る)
  • 避難・初期消火の短時間訓練(全社員参加が理想)
  • 「電話が使えない」「本社が使えない」条件での机上演習
  • BCPのページ数より、1枚ものの初動カード(責任者・集合場所・連絡先)を全拠点に
  • 人事異動のたびに責任者・代行者を更新

⑦ やってはいけないこと(企業編)

  • 安否が取れていないのに通常業務・納品を強行する
  • 危険な建物・現場への出勤命令
  • 未確認情報に基づく顧客・取引先への断定的な案内
  • 災害を理由とした不適切な解雇・不利益取扱い(法令・労務に抵触し得る)
  • 重機・啓開区域への無断進入や、緊急車両の通行妨害
  • 備蓄・発電機の燃料を「あるはず」で管理せず、発災後に初めて不足に気づく

BCP策定フレームワーク(全体像)

BCP(事業継続計画)は「災害が起きたあと、どの事業を・どの水準で・いつまでに戻すか」を事前に決める計画です。ISO 22301や内閣府の事業継続ガイドラインの考え方を、中小企業でも使える形に落とすと、次の6層になります。

1. 方針

何のために続けるか(人命・顧客・雇用・社会的役割)。経営者が一文で宣言する。

2. 分析

重要業務の洗い出し、目標復旧時間(RTO)、目標復旧水準(RLO)、インパクト(売上・規制・安全)。

3. 戦略

代替拠点、代替人員、代替仕入、在宅、在庫、外部委託など「どうやって続けるか」。

4. 計画

初動手順、安否、施設点検、優先業務の再開手順、対外連絡、資源リスト。

5. 定着

教育、訓練、カード化、人事異動時の更新。文書より「使える形」。

6. 改善

訓練の振り返り、実災害の教訓、年1回の見直し。PDCAを回す。

福岡向けの補足:分析では「南海トラフ(供給網・物流停止)」と「警固断層(自社被災)」の2シナリオを最低限置くと、後方拠点型と直下型の両方に耐えるBCPになります。

BCP策定の手順(実務の進め方)

大企業向けの数百ページは不要です。まずは経営者+実務1〜2名で、以下を順に埋めてください。

方針と适用范围を決める

対象拠点(本社・工場・店舗)、対象災害(地震・風水害・感染症・サイバー等)、計画の目的を1ページに書く。
例:「従業員の安全を最優先し、重要顧客向け業務を発災後72時間以内に最低限再開する」。

重要業務を特定する(止められない仕事)

全部は守れません。売上・法令・安全・信用の観点で、優先業務を3〜5個に絞る。
それぞれに「いつまでに・どの水準まで戻すか」(RTO/RLO)を仮置きする。
例:受注システム=24時間以内に照会のみ再開/製造ライン=7日以内に主力1ライン。

リソースと依存関係を書き出す

各重要業務に必要な人・もの・情報・拠点・外部(電力、通信、仕入先、物流、クラウド)を表にする。
「単一障害点」(この1社・この1人が止まると全部止まる)に印を付ける。

被害想定で穴を見つける

福岡なら最低2ケース:①南海トラフ(自社軽微・取引先・物流停止)②警固直下(自社被災・安否混乱)。
各ケースで「どのリソースが何日使えなくなるか」を想定し、STEP 3の表と突き合わせる。

継続・復旧の戦略を選ぶ

代替手段を業務ごとに1つ以上決める。例:在宅勤務、他拠点、手作業、代替仕入、在庫積み増し、外部委託。
コストと効果のバランスで「今すぐやる/余力でやる」を分ける。

初動手順をカード化する

発災〜24時間を分単位〜時間単位で書く。誰が・何を・どこで・何を使って。
安否確認→安全点検→対策本部設置→対外一次連絡→優先業務の可否判断、の順が基本。
A4の1枚(または両面)にまとめ、全拠点の目につく場所とデータで共有する。

資源を揃える

備蓄、連絡手段、バックアップ、代替拠点の契約、保険、協定。STEP 5で選んだ戦略に必要なものだけを先に揃える。
「計画だけあって物資がない」状態を避ける。

教育・訓練・見直し

全員向けに「初動カードの読み合わせ」を年1回。責任者向けに机上演習を年1回。
安否確認のテスト送信で応答率を測る。人事異動のたびに氏名を更新する。
実災害や他社事例があれば、その都度1ページ追記して改善する。

文書として最低限そろえるもの

  • BCP方針(1ページ:目的・対象・責任者)
  • 重要業務一覧(業務名・RTO・RLO・担当)
  • 初動カード(発災24時間の手順・連絡先)
  • 安否・緊急連絡網(紙+データ)
  • 資源リスト(備蓄・鍵・システム・代替拠点)
  • 対外連絡テンプレート(顧客・取引先・従業員向けの文例)

これ以外は、必要になった業務から順に厚くすれば十分です。

よくある失敗と回避策

  • 分厚い計画書だけ作って終わった → 初動カードと訓練を先に
  • 担当者が1人しか知らない → 代行者を必ず置き、共有フォルダへ
  • 地震以外を無視 → 通信・パンデミック・サイバーも1行でよいので触れる
  • RTOが非現実的 → 「理想」と「最低限」の2段で書く
  • 更新されない → 人事異動月と事業年度初めに見直し日を固定
  • 現場が読んでいない → 全社メールより、掲示と朝礼の1分説明

SIRT・行政と企業の接点

道路啓開・重要施設の応急復旧・産業の緊急対応は、自治体の調整のもと、消防・自衛隊・協定民間(SIRTの各機能ユニット等)が担います。一般企業に求められるのは次です。

  • 自社の安全と安否を最速で確定する
  • 優先業務と代替手段を平時から決めておく
  • 行政・協定組織の活動を妨げない(作業区域・緊急交通路の確保)
  • 必要に応じ、商工会議所・自治体の相談窓口・既存の災害協定を使う

「完璧なBCP」より、氏名の入った初動カードと、年1回の安否テストがあることの方が、発災時には効きます。

09このストレステスト・シナリオ提案の課題点

連動の根拠は仮説

「南海トラフ→警固断層帯」の直接連鎖は学術的に確立していません。資料内では必ず「ストレステスト」と明示します。説得力は、確率の高さではなく資源競合という構造にあります。なお後発地震(内閣府)や海域断層と警固の連動(県調査)は、複合シナリオの妥当性を補強する公的材料です。

SIRTの保有人員が未確定

各ユニットの標準編成は資料にありますが、保有班数が決まらないと、配置ルールの比率は実数に落とせません。協定締結前に確定が必要です。

民間に指揮権はない

要請を待たない出動は、協定上の整理が前提です。事故・二次災害時の責任範囲、保険、従事者の安全基準は別途詰める必要があります。

被害想定は「最大ケース」

冬18時・強風の最悪条件です。平均的な被害ではないため、計画は最大ケースで、予算説明は発生確率とセットで行うのが筋です。

10出典